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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11139号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】一被告から仲裁契約の存在を主張して本案前の抗弁が出され、主体工事(建物工事)部分につき、請負契約に関して紛争を生じたときは建設工事紛争審査会の調停ないし仲裁判断に服する旨の約款が存することについては当事者間に争いがないところ、被告は右合意は付帯工事や追加変更工事を含む全工事について適用があると主張し、原告はこれが主体工事に限定される旨を主張して争うので、まず、本件工事の実体についてみることとする。二<証拠>を総合すると次の事実を認めることができる。

1 被告は、鎌倉市関谷七七七番一号の土地に山口建と結婚した娘マチコのために住宅を建築することにし、知人の紹介により原告と請負契約をすることにした。右工事は、敷地面積294.47平方メートル上に面積58.59平方メートルの木造平家建住宅と崖状部分を掘さくして車庫をつくるというものであるが、前記土地が近く市街地調整区域に指定されると建築が不可能になるので、その以前に建築確認申請をする必要が生じたなどの事情のため、昭和五〇年三月九日原告と被告との間で建物建築工事(主体工事)についてのみ工事請負契約書が作成された。

2 前記建築工事費は、四〇〇万円であるが、付帯工事一式及び確認申請書等の費用は別途することが同契約書に明記されている。

3 ところで、被告は本件工事全体の予算として一〇〇〇万円の範囲内にとどめたい意向であることを原告代表者高橋峰五郎に対し示していたが、右高橋が被告に交付した同年三月一一日付見積書によると、新築工事費概算として、(一)建物主体工事費四〇〇万円、(二)鎌倉市役所への調整地区申請手数料三万五〇〇〇円、確認許可申請費八万六〇〇〇円、(三)水道工事費二六六万五〇〇〇円、鎌倉水道局加入金一〇万円、(四)敷地内整地工事費一六万三三〇円、升切り整地等工事費三万円、(五)車庫工事費二三四万円、(六)階段工事費四五万円、土間コンクリート工事費七万五〇〇〇円、(七)土留工事費五九万六二五円、(八)垣根(フェンス)工事費三五万八二五〇円、総額八三七万九二〇五円のほかに(九)住宅内水道工事費四〇〇万円の一〇ないし一三パーセント、(一〇)住宅内電気工事費四〇〇万円の六ないし八パーセント、(一一)住宅内台所調理台等四〇〇万円の五ないし一〇パーセントとし、ただし、(九)ないし(一一)の住宅内の付帯工事費につき「概算は約一〇〇万円予算して下さい。」と記載されている。

4 しかし、前記主体工事を除く付帯工事については別段契約書の作成はなく、実際に原告が着工してみると、被告又はその代理人である夫の下村覚から追加、変更工事の指示がなされ、原告の施工による費用は次のとおりである。

(一) 主体工事  四〇〇万円

(二) 付帯工事 一〇二〇万円

(1) 敷地整地工事 四八万九九〇円

(2) 土留工事 一六〇万三八〇〇円

(3) フェンス工事 四一万二五〇〇円

(4) 車庫工事 三七五万円

(5) 門工事(三か所) 三三万円

(6) 階段工事(三か所) 九九万四五〇〇円

(7) 水道工事(公道工事分) 二六六万五〇〇〇円

右合計一〇二三万六七九〇円

値引額  三万六七九〇円

差引残額  一〇二〇万円

(三) 変更・追加工事 三五六万六四一円

工事の内容・代金額及び納品書又は請求書関係は別紙一覧表番号1ないし27記載のとおり

(四) 車庫工事残土の敷地ならし及び土留工事増加分 四六万一七〇〇円

(別紙一覧表番号28のもの)

右(一)ないし(四)合計額一八二二万二三四一円

そして、右費用の増加については、そのつど被告側の了承を受けていた。

5 被告が原告主張の日時にその主張の金額を支払つたことは当事者間に争いがなく、その合計額は一〇〇二万九〇〇円となる。

三<反証排斥略>

そこで、前認定の事実関係に照らし、まず被告の本案前抗弁について考えるに、一般に、主体工事について仲裁契約がなされておれば、付帯工事ないし追加・変更工事につき別段の合意がない限り、右仲裁契約の合意は追加・変更工事部分も含めて工事全体につきその効力が及ぶものと解すべきであるが、本件では必ずしもそのように断定することはできない。

そもそも、仲裁契約は契約当事者間に紛争が生じたとき第三者の仲裁判断にその解決を委ねようとするいわば訴権の自主規制を目的とする合意であるから、その合意の成立、効力の及ぶ範囲等については、慎重、かつ、厳格に解すべきものである。これを本件についてみると、主体工事契約については被告主張の仲裁約款の適用が明らかであるが、付帯工事、変更・追加工事分については契約書も作成されておらず、仲裁契約の合意が明示的にされた証拠は何もないこと、主体工事の契約書中にも付帯工事一式及び確認許可申請等の費用は別途とすると注意書きがなされていること、昭和五〇年三月九日の主体工事に関する契約当時、かなり大幅な付帯工事等が当事者間に予想されていて、同月一一日付見積書中においても主体工事費が四〇〇万円であるのに付帯工事費の方が約六〇〇万円も見込まれていたこと、原告が実際に施工してみると、施主である被告側からしばしば工事の追加、変更が指示され、原告としてはそのつど工事費の増加分につき被告又は代理人である夫の下村覚からその了承を得ながら工事の進行、完成をさせたものであること、被告としても主体工事分四〇〇万円についてはなんら異議なく支払つており、本件における紛争の主体はむしろ付帯工事、追加・変更工事の費用に関するものであること、以上の事実を総合勘案すると、家屋建築の主体工事とその他の付帯工事及び追加・変更工事とでは、その工事金額、工事の進行状況等からも、後者が前者の付随的工事であつて、一括的に前者における仲裁契約の合意の効力が後者にも及ぶものと解するのは相当でない。

してみると、本件につき仲裁(調停)契約が存することを前提とする被告の本案前抗弁は採用することができない。<以下、省略> (牧山市治)

別紙一覧表<省略>

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